FDS

FDSは、国立標準技術研究所(NIST)より開発・提供されている火災シミュレーションコードです。火災事象における煙、温度、一酸化炭素などの挙動を予測することができ、この予測結果は施工に先立って建物の安全性を確認したり、既存の建物の安全性を評価したり、火災後の現場検証などのための火災の再現、消防士の訓練のために使用されます。
海外では建築物の施工に先立つ防火基準としてFDS解析を条件とする場合もあります。
FDS(Smokeviewを含む)は、オープンソースのプログラムとして無料で提供されています。

PyroSimを導入して頂いたお客様に限り、FDS日本語マニュアルを進呈させて頂いております。

弊社ではFDSのサポートサービスも行っております。ご希望のお客様はお問い合わせ下さい。 ※FOCUSスーパーコンピュータでもFDSが使用できる環境が整っています。

アメリカ(米国)
目的
建物火災
数値解析手法
CFD
最大火災室数
少数
壁面熱伝達
解析可能
低層ガス温度計算
温度分布
他物質加熱、温度計算
可能
火災(発熱)源
任意指定可能
酸素量変化計算
可能
ガス濃度計算
可能
火災探知モデル
可能
スプリンクラー
可能


下記FDSマニュアルの和訳・抜粋です。

FDSモデルの分類

FDSは火災によって駆動される流れの計算流体力学(Computational Fluid Dynamics,CFD)モデルである.このモデルでは、火炎からの煙および熱の輸送を重視した低速で熱に駆動される流れを記述するNavier-Stokes方程式の数値解を求める.質量、運動量およびエネルギの保存式に現れる偏微分は有限差分で近似され、その数値解は三次元直方格子上で時間について更新される.熱放射は流れのソルバと同じ格子上で有限体積方を用いて計算される.煙の流動とスプリンクラーの放出を模擬するためにLagrange粒子が用いられる.SmokeviewはFDSの付属プログラムで計算結果の画像や動画を生成する. 近年,開発者のGlenn ForneyはSmokeviewに火炎や煙をリアルに可視化する機能を追加した. Smokeviewは通常の可視化ソフトウエアでは不可能な方法で火災室内の見通し距離を3次元レンダリングによって評価できる. その意味でSmokeviewは今やFDS物理モデルの不可欠な部分といえる.NISTによって保守されているFDS/Smokeviewの一部ではないが,サードパーティーが提供する様々なFDSの「アドオン」ソフトウエアが存在する. これらには商用のものと個々のユーザーによって個人的に保守されているのもとがある. 最も注目すべきはシミュレーションを実行するのに必要なすべての情報を含む入力ファイルを作成するのに使用できるいくつかのグラフィカル・ユーザ・インターフェース(GUI)が存在することである.

FDSモデル開発者

現在FDSは米国標準技術局(NIST)の建築および火災研究室(BFRL)によって保守されている.NISTにおける開発者らは興味をいだく関係者らと協力関係を結んでいる.それらの団体には次のものがある.

  1. NISTと類似の調査研究機関であるフィンランドVTT技術研究センター
  2. 防火技術者協会(SFPE), (FDSの講習を行っている)
  3. FDSを利用する防火業界
  4. 火災を扱っている大学工学部

BFRLは火災科学技術分野の研究を行う機関に競争的資金を提供している. これら資金のいくつかはFDSの開発支援に使用された. 日々の開発における資金利用者の役割は様々である.NIST外部のすべての開発者が資金を授与されているわけではない.
FDS開発チームはバージョン5からGoogleCodeと呼ばれるインターネットベースの開発 環境を使用している. GoogleCodeは検索エンジン会社の無償サービスでありソースコードの保管場所(リポジトリ),改版管理,プログラム配布およびバグ追跡その他有用なサービスを提供することによってオープンソースのソフトウエアの開発支援に広く利用されている.
FDS開発チームの個々のメンバーはFDSリポジトリにアクセスするアカウントとパスワードを有している. 加えて興味あるユーザーは匿名でのアクセスが可能であり最新バージョンのソースコード,マニュアルその他を入手可能である. 匿名ユーザーへの制限は単にこれらを改変できないということだけである. FDSおよびマニュアルを改変する権利はCase by Caseでだれにでも提供される.
FDSマニュアルはLATEX,特にPDF LATEXを用いて版組みされている. LATEXファイルはSVN(Subversion)で管理されるテキストファイルである. 図はベクトル形式かラスタ形式かによってPDFまたはJPEG形式のファイルである. MiKTeXはじめ様々なLATEXパッケージがある.FDS開発者らはモデルの日常的な保守の一環としてマニュアルを修正している. マニュアルは日々に改版されている.

開発プロセス

FDSのソースコードには日々変更が加えられバージョン管理ソフトウエアによって追跡される.しかしながらこれらの日々の変更はバージョン番号の変更には含まれない.開発者らが十分な変更が蓄積されたと判断したとき,たとえば5.2.12から5.2.13へのマイナーアップグレード版をリリースする. アップグレード版のリリースは数週間ごとになされる. 5.2 から5.3 へのアップグレードは物理モデルに重要な改良がなされば場合で,年に数回だろう. FDSをアップデートする公式の手続きはない.個々の開発者は様々なサブルーチンに取り 組んでおり,変更を行う. ささいなバグは相談無しに(開発者らは異なる場所にいる) 修正されるが,より重要は変更については電子メールか電話で議論される. ひと揃いの簡単な検証計算(この文書に記述されている)がルーチン的に実行され,日々のバグ修正が重要なアルゴリズムを変えてしまうことがないことが確認される.
ひと揃いの検証計算は重要なアップデートの度に実行される. 重要な変更は以下に順不同で列挙する基準のもとに行われる.物理モデルの改良: すべての物理モデルのゴールは予測可能性であるが,同時に信頼性も必要である. FDSは経験則と決定論的なサブモデルの組み合わせであり,それらは堅牢さ, 整合性および信頼性に基づいて選択されている.
新しいサブモデルは,対応する経験則と 同程度かそれ以上の精度を有するものでなければならない. CPU 時間の増加が過大でないこと: 提案されたアルゴリズムが計算時間を倍増させ精度の改善がそれほどでもなければ採用されないだろう. また,FDSの様々なサブルーチンは その重要度に比例したCPU時間を消費するものと期待されている. たとえば放射輸送 アルゴリズムはCPU時間の約25 %を消費するが,火炎のエネルギの1/4から1/3が熱放射 として放出されることに見合っている.
より簡単なアルゴリズム: 新アルゴリズムが旧アルゴリズムと同等の処理をより少ないコ ード行数で行うなら機能を低下させないかぎりほとんど常に採用されるだろう. 精度の向上または維持: 検証実験は新ルーチンの尺度としてこのガイドラインの一部をなしている.新アルゴリズムが少数のケースで性能を発揮するだけでは不十分であり一連の 実験について明確な改良が示されなければならない.もし精度が前バージョンと同程度 であれば,精度以外の基準が満たされなければならない.
防火業界の受容: 特に,スプリンクラや煙感知器といった火災関連機器に関しては, FDSのアルゴリズムは現場技術者に受容されるものを基礎としている.

想定しているFDSの利用方法

開発の全期間,FDSは防火技術における実際の火災問題を解くとともに, 基礎的な火災のダイナミクスと燃焼を研究するツールを提供することをねらいとしてきた. FDSは次のような現象を模擬するのに使用することができる.

  1. 火炎からの熱と燃焼生成物の低速の輸送
  2. 気体と固体表面の放射および対流による輸送
  3. 固体燃料
  4. 火炎の伝播と火災の成長
  5. スプリンクラ,熱感知器および煙感知器の起動
  6. スプリンクラの噴霧および水による消炎

FDSは火災シミュレーションに特化して設計されたが,火炎や熱計算を必要としない他の 低速流のシミュレーションにも使用できる. 今日まで,FDSの適用事例の約半分は煙制御システムの設計やスプリンクラや感知器の起動の研究に使用されてきた. のこりの半分は住宅火災や産業火災の再現である.

FDSが必要とする入力項目

ある火災事象をモデル化するためにFDSが必要とするすべての情報はユーザーが作成する単一のテキストファイルに含まれる. このファイルには,数値格子,雰囲気条件,建物形状,物性値,燃焼機構,必要な出力などの情報が記述される. 数値格子は一つまたは複数の(通常は)等間隔セルからなるメッシュで構成される. すべての幾何形状の輪郭はこの格子と一致しなければならない.1セルより小さい物体は1セルで近似されるか削除される.建物形状は一連の直方体ブロックとして入力される.固体表面の境界条件は矩形パッチとして与えられる.材質は熱伝導率,比熱,密度,厚さおよび燃焼特性によって定義される. この情報を入力するには必要とするモデルの詳しさに応じて様々な方法がある.
実際の火災事象のシミュレーションではいつも壁,床,天井および家具の物性値を指定する 必要がある. FDSはこれらの物体を複数の層からなる固体として扱う.したがって多くの実在の物質の物理パラメタは実際の物性の近似としてのみ解釈される. ユーザーにとってこれらの物質を入力ファイルに記述するのはもっとも困難な作業である.熱伝導率,比熱,密度および厚さなどの熱物性値は様々なハンドブック,メーカーの仕様書およびベンチスケール計測などから見出される. 物質の異なる熱流速における燃焼は記述するのが難しく,その特性を得ることは困難である.
この主題を1冊の本[11]全体で扱ったとしても,特定の項目について情報を見出すのは難しい.いろいろな物理量をコードが出力するよう指示する部分がFDSの入力ファイル中のかなりの割合を占める. 実際の火災実験ときわめて類似するが,ユーザーはどんな情報を保存するか計算を始める前に指定しておかなければならない. はじめに指定し忘れた場合,計算後にその情報をとりもどすことはできない.FDSで必要な入力パラメタの完全な説明はFDS User’s Guide [3]にある.

FDSの出力

FDSは温度,密度,圧力,速度および化学種の組成を離散的な時間ステップごとに個々の格子セルで計算する.通常,使用するセル数は数十万から数百万,時間ステップ数は数千から数十万で ある.さらに,FDSは固体表面で温度,熱流束,質量減少速度及びその他の量を計算する. ユーザーは実際の実験を計画するのと同様に,保存すべきデータを注意深く選択しなければならない. 計算された情報のごく一部を出力したとしても出力ファイルはかなり大きなサイズなる. 気相での典型的な出力量には次のものがある.

  1. 気体温度
  2. 気体流速
  3. 気体種の質量分率(水蒸気, CO2, CO, N2)
  4. 煙濃度と見通し距離の推定値
  5. 圧力
  6. 単位体積
  7. 混合分率(空燃比)
  8. 気体密度
  9. 単位体積あたりの液滴質量

固体表面においてFDSは気相と固相間のエネルギバランスにともなう付加的な量を予測す る.これらの量には次のものがある.

  1. 固体表面または内部の温度
  2. 放射および対流熱流束
  3. 燃焼速度
  4. 単位面積あたりの液滴質量
  5. 次に示す大域的な量がプログラムによって記録される.
  6. 総発熱速度(HRR)
  7. スプリンクラや感知器の起動時刻
  8. 開口部または固体表面での質量およびエネルギ流束

空間の1点での様々な変量または発熱速度のような大域的な量の時刻歴はスプレッドシートプログラムでプロット可能な単純なカンマ区切り(CSV)形式のテキストファイルに保存される. しかしながら,ほとんどの場のデータまたは表面データはSmokeviewと呼ばれるプログラムを用いて可視化される. SmokeviewはFDSで生成されるデータの解析専用のツールである.
FDSとSmokeviewは火災現象をモデル化して可視化するのに連携して用いられる. Smokeviewは追跡流子の動画,計算された気体データの断面等高線動画及び表面データの動画によって可視化を行う. Smokeviewはまた特定の時刻の等高線およびベクトルを背景とともにプロットすることもできる. FDSが出力する量の完全なリストと書式は文献[3]に見出すことができる. Smokeviewの 利用法の詳細は文献[12]にある.

FDSの基礎式,仮定および数値解法

以下はFDSの主要部分の要約である.FDSモデルの仮定や支配方程式の詳細は3.1節に記述されている.
流動モデルFDSは火炎による熱と煙に着目した低速で熱に駆動される流れに適した形 のNavier-Stokes方程式を数値的に解いている.中核のアルゴリズムは時間と空間につい て二次精度の陽的予測子−修正子スキームである.
乱流はラージ・エディ・シミュレー ション(LES)のスマゴリンスキー形式で取り扱われている.十分に細かい格子が使用で きる場合は直接数値シミュレーション(DNS)を行うことができる.
既定の解法はLESで ある.燃焼モデルほとんどの適用事例でFDSは混合分率の概念に基く燃焼モデルを使用する.混合分率は燃料を起源とする流れ場の所与の点における燃料ガスの質量割合として定義される.FDS5以前のバージョンと異なり, 燃料と酸素はかならずしも瞬間反応かつ完全反 応である必要はなく換気支配燃焼の度合いを予測するよう設計された様々なオプショ ンのスキームが存在する.すべての主要な反応ガスと反応生成物の質量分率は簡単化さ れた解析と測定から得られる「状態関係式」を用いて,混合分率から算出することがで きる.放射輸送放射熱伝達は灰色ガスについての放射輸送方程式の解を通してモデルに考慮される.
限られた数のケースについては,灰色ガスモデルのかわりに広帯域モデルを使用し てスペクトルの精度を向上させることができる.放射輸送方程式は対流輸送についての 有限体積法と類似の手法を用いて解かれるのでその解法は有限体積法(FVM)と名づけ られている.角度を約100に離散化すると放射輸送方程式の有限体積ソルバは計算全体 のCPU時間の約20 %を必要とする.
これは放射輸送の複雑さからして控えめな計算コ ストである. 水滴は熱放射を吸収または散乱することができる.これはミストのスプリ ンクラがあるケースで重要であるだけでなく,すべてのスプリンクラのケースに役割を 果たす.吸収及び散乱係数はMie理論に基づく.気体種とすすからの散乱は考慮されてい ない.幾何形状FDSは基礎式を一つまたは複数の直方格子上で近似している.ユーザーが記述する直方体の障害物の輪郭は使用している格子に一致するよう強制される.
境界条件すべての固体表面には熱に関する境界条件と物質の燃焼に関する情報が設定され る.通常熱物性値はデータベースに格納され,材質名によって呼び出される.固体表面で の熱伝達および物質移動は通常,経験式で記述されるが, 直接数値シミュレーションを 行う場合は直接計算可能である.
スプリンクラと感知器スプリンクラと熱及び煙感知器の起動はスプリンクラと熱感知器に ついては熱慣性,煙感知器については輸送の時間遅れに関するきわめて簡単な相関を用 いてモデル化される.スプリンクラのスプレイはラグランジュ粒子によってモデル化さ れスプリンクラから噴射される液滴のサンプリングを提供する.

FDS- Smokeviewインストールサイト(NIST)


FDS 5のマニュアル(英語)
確実に最新のマニュアルにするために、NISTのFDSWebサイトに直接接続します。
Users Guide FDS_5_User_Guide.pdf
Technical Reference, Volume 1 FDS_5_Technical_Ref.pdf
Smokeview 5 User Guide SMV_5_User_Guide.pdf
FDS 4のマニュアル(英語)
Users Manual fds_users_guide_4.pdf
Technical Reference fds_tech_guide_4.pdf
Smokeview 4 Manual sv_users_guide_4.pdf


開発元THUNDERHEAD ENGINEERING社提供、追加ドキュメント(英語)
Time and Memory Estimates PyroSim Benchmarks
FDS Surface/Material Resources FDS Material Data Resources